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京呉服好一という会社
▲ 辰巳にある本社
京呉服好一は、岡山県南区辰巳に店舗を構え、成人式の日に着ることが多い「振袖」の他に一般呉服と呼ばれる「留袖」「訪問着」「小紋(こもん)」「色無地」「紬(つむぎ)」、夏に着る「浴衣」などの販売を行っており、「振袖を入り口に、一般呉服を広めていく」ことをミッションとしている呉服屋だ。
縁もゆかりもなかった岡山で創業
▲ 接客をしているところ
福井県で呉服屋を営む両親のもとに生まれた平田好一さんは、小さい頃から売り場が遊び場だったため、着物に囲まれて育った。両親からは「家業は別にやらんでもええ」「好きなことをすればいい」と言われていたとのことだが、20歳の頃に怪我をして退院後のリハビリを兼ねて着物をお客様のところに届けるなかで呉服屋の仕事の楽しさを知ったという。

学生の頃は家業を継ぐというようなことは全く考えていなかったのがだが、このことがきっかけとなり、着物の世界に足を踏み入れることを決意。いきなり家業を継ぐのではなく全国にチェーン展開をする大手呉服屋に入社し、8年間修業し、2年間の準備期間を経て、大手呉服屋勤務のときに管轄をしていた岡山県に、京呉服好一を設立した。
呉服屋の仕事
呉服屋の仕事は、反物(たんもの)と呼ばれる着物を一着作れるほどの長さの生地を「仕入れ」、お客様がお店に来てもらえるようにする「集客」、来店してくれたお客様に「接客・販売」し、お客様の要望に合わせて「仕立て」をして納品するという仕事だ。

京呉服好一では、扱う振袖は、30社くらいの呉服屋が集まり、振袖の選品やパンフレットの制作を共同で行っている京都きもの工房グループに加盟し、そこから仕入れている。パンフレットのモデルに芸能人を起用しようと考えたら一社ではとても払える金額ではなくなってしまうのだが、共同で作成をし、出来上がったパンフレットを加盟している呉服屋全体で購入することで、価格が抑えられる。パンフレットだけでなく振袖も、中間業者や問屋を通さず、直接買い付けることになるため価格も抑えられることとなり、京呉服好一だけで仕入れるより、はるかに安価で良い反物をお客様に提供できるようになるのだ。

お客様が選んだ反物を着物にしていく「仕立て」は、平田さんの両親が経営する福井県の京呉服平田で行われる。

そのため、京呉服好一で行う仕事は、お客様がお店に来てくれるようにする「集客」と、来店されたお客様の「接客・販売」が主な仕事となる。

京呉服好一の集客はホームページやブログ、雑誌への掲載から連絡が来る場合と、直接電話勧誘をするという場合があり、圧倒的に電話からのお客様が多いようだ。京呉服好一には年間200名くらいの新規のお客様が来店され成約となるのだが、その理由は振袖を入り口としているからだそうだ。

▲ 店内に展示されている振袖

▲ 店内に展示されている小物

▲ 店内に展示されている反物

振袖が入り口となり、着物の文化を伝えていく
▲ こだわりのアルバム
平田さんが8年間修行をしていた大手の全国チェーンの呉服屋では、一般呉服の販売をしていて、振袖の販売はさせてもらえなかったという。平田さんは現代の方の着物文化の入口は振袖だろうと思っていたため、自分の店を持ってから現在の形を取り入れたそうだ。

着物に興味があるないに関わらず、成人式には女性の九割が振袖を着るという状況があるため、電話がきっかけとなり来店になるケースが多いのだそうだ。また、現在(2014年11月)電話をかけてご来店されるお客様は来年(2015年1月)に成人式を控えるお客様ではなく、再来年(2016年1月)に成人式を控えるお客様だという。振袖の予約は年々早くなってきており、その理由は早く予約しておかなければ着たい着物が他の人に押さえられていてレンタルできなくなったり、美容室の予約がとれず、前日の22時にヘアメイクをして一日中その頭でいなければならない可能性があることや、早期割引なので業界全体でたきつけている風潮があると平田さんは考えている。

業界全体が早くなったことで、お客様にもメリットがある。それが「前撮り」だ。昔は成人式当日の朝にヘアメイクをし、着付けをした上で写真を撮ることが当たり前だった。デジカメもなかったため、後日現像されて出来上がった写真を見て失敗だったということもよくあったことのようだ。それが今では着物を選んでから成人式まで1~2年の期間があるため、その間に撮影会を催し、前撮りをするのだ。

京呉服好一では、今後ずっと残る写真に強くこだわりを持っているため、雑誌に載っている有名なカメラマンに指導するようなカメラの先生を愛知県から招いて、年に4回撮影会を実施している。カメラの先生はご年配だが、そこの社員は若い人が多いため、撮影会は楽しく、自然な表情の作りやすい雰囲気で行われ、撮影した写真をその場で選び、アルバムにすることができる。成人式の前撮りのアルバムというのはお母さん同士で見せ合うことが多いようで、京呉服好一のアルバムを見たときにその写真の質の高さから「妹の時は京呉服好一でお願いしよう」と噂になることもあるという。

また、振袖の予約をされたお客様に対して、京呉服好一では着物の文化に触れてもらうために、展示会や着物パーティー、そして着物を着る機会の提供を行っている。

展示会は、岡山の店舗で行うこともあれば、夏にはお客様と京都に行ったり、着物を作っている工房を見に行くということもあるそうだ。着物自体は綺麗なものだが、作る工程は年配のおじいさん、おばあさんが手作業でしている泥臭い部分もある。そういう風に着物が出来上がっているという現場を見て、物の大切さを知ってもらい、着物について知ってもらうのだそうだ。

着物は女性の中では憧れのものであり、着たいか着たくないかでいうと着たい人の方が多いと思うが、「着るのが面倒くさい」「着かたがわからない」「いくらかかるかわからない」ということが頭をよぎり、最初の一歩を踏み出せない人が多いと平田さんは考えているため、まずは私服で来店してもらい、持参してもらったお母さんから借りた着物や、店でレンタルできる着物を、店舗で着付け、ヘアメイクをして着物で遊びに行き、遊び終わったら、そのまま着物は店舗に置いてクリーニングなどのアフターケアは京呉服好一でするという、簡単に着物文化に触れられるような試みもしているそうだ。
呉服屋としての使命
▲ 四代目 平田好一社長
最近では写真館なども振袖のレンタル事業に進出してきており、昔ながらの呉服屋がどんどん縮小しているという。だからこそ京呉服好一が呉服屋として振袖や着物を提供していくことはとても意味があると考えているようだ。

京呉服好一に来店されたお客様は、100%とまではいかなくとも、限りなく100%近いお客様がご成約になる。他店ではなく京呉服好一が選ばれる理由は「接客」だと平田さんは言う。

挨拶や掃除など当たり前のことを丁寧に行うのはもちろんのこと、振袖をただ「綺麗だ」「可愛い」という理由で選んでもらうのではなく、着物の柄の意味や、紋についてなど着物のことをしっかりと説明した上で選んでもらうのだそうだ。

着物に関する知識はとても広く深いため10年働いたとしてもまだ知らないことがあるほどだそうだ。そのため入社したときに着物や柄に関する教育、そして毎月の会議のときに知識の話がでたり、福井の京呉服平田に行き、学ぶということを続けているのとのこと。

振袖が入り口となり、出会ったお客様に着物のことを伝えていくことで、日本の第一礼装である着物の文化を後世に残していくことが呉服屋の仕事だと平田さんは考えている。
今後の展望
今後は、店舗を拡大していくことを考えているようだ。倉敷に一店舗、また岡山にももう一店舗出店したと平田さんは言う。また、今は振袖がメインだが、一般呉服、礼装としての呉服を広げていくために、ブライダルへの衣装提供も視野に入れている。
インタビュアーから
着物と接する機会がなく、振袖と着物の違いもわからなかったのですが、昔の日本は普段着として着物を着ていて、そこには礼装としての着物だけでなく、小紋や紬と言われるカジュアルな着物もあるということを知りました。伝統を守り、着物の文化を伝えていく企業があることは文化を守るためにとても 必要なのだと思いました。