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inBlueとは
inBlueとは、主にデニム生地の企画販売をしている株式会社ナッシュの1事業部だ。株式会社ナッシュでは、ジーンズメーカーに「こんな生地を使って製品を作りませんか?」と提案したり、一緒にオリジナルの生地を開発し、提携の機屋(はたや)で作ってそれをジーンズメーカーに販売するという仕事をしている。この企画提案は、テキスタイル部門が担っており、inBlue事業部は10年ほど前にできた部署で、自社で開発した生地を使ってオーダーメイドのデニムスーツの販売をしているところだ。
デニムスーツができるまで
昔はこだわって好きなジーンズを何本も持っている人がいたが、今では、安くてかっこいいものがあればいいかな、という人が多くなってきた。海外で生産された安いものが出てきたり、ただ単に、ファッションの一部ととらえられることで、こだわってお金をかける人が少なくなり、ジーンズ自体が売れなくなってきている。

社長の中にも、ジーンズは売れなくなるという感覚はあったそうだ。一つの歴史が流れて来ると、終わりも来る。次に進まないといけないのだ。そこで何か新しいものを作ろうと素材開発が始まったそうなのだが、当時流行っていたダメージ加工したデニムとは逆に色落ちしないきれいなデニムを作り始めたのだそう。やはり、着るものが色落ちしていたり、破れたりしていてはいけないと思ったからだった。しかし、できた生地をもってジーンズメーカーに売り込みに行ったものの、ダメージ加工が流行していたので、「生地はいいと思うけど、うちではいらない」とどこに行っても断られたそうだ。そこで、せっかく作ったこのきれいな色落ちしないデニムを、何に活かせるか、と、考え始めたところ、社長の頭の片隅には「男はスーツだろ」という考えがあったので、スーツを作ろうということになったそうだ。カジュアルなジーンズとフォーマルなスーツは真逆なものだが、全然違うものをあわせると新しいものが生まれるのだと言う。次の売り込み先はスーツメーカー。またしても「生地はいいと思うけど、うちではいらない」と断られたそうだ。そこで社長が考えたのは、ジーンズメーカーもスーツメーカーもいらないということは誰もやらない空いたところを見つけたのではないかということ。そこで、自社でブランドを立ち上げ、デニムスーツの開発が始まったのだ。

ブランドの立ち上げから10年。スーツとして着れる生地を機屋と協力して、改良を重ね、制作し、デニムでスーツを作ったことのない提携工場とは、デニムの扱い方を教え、スーツの採寸の仕方を教えてもらいながらの二人三脚でデニムスーツを作ってきたそうだ。
デニムスーツ向けの生地開発
もともとジーンズは大量生産される作業服として生まれたもので、きれいに着こなすことを目的とされていないため、色が剥げ落ちたり、破れても、問題にはならなかった。このジーンズ生地を使ってスーツを作ると、固く、ごわごわしたり、よくこすれる肘は色が剥げ落ち、白くなってしまうので、着やすく、色が剥げ落ちないようにするのが最初の課題だった。

そもそもなぜこすれると色が落ちやすいかというと、ジーンズは粗野な糸を使って、粒子が粗いインディゴという染料を使っているので糸の中まで染まりづらいからだ。そこで、inBlueでは、きれいなつやのある糸を使って、染める時間や回数を工夫し、スーツ向きの生地を作った。ただ、きれいになりすぎてしまうと、普通のウールのスーツと変わらなくなってしまい、デニムの良さが伝わらないので、デニムだとわかるが色が剥げ落ちず白くならない生地を目指した。これでデニムスーツの生地はできあがったそうだ。

スーツの販売が始まってからも、inBlueの試行錯誤は続いていく。今度は色柄をどうするか。ウールと同じような柄を作っても面白くないので、ちょっと変わった、ちょっと派手な、ちょっとおもしろい、そんな生地を作る。10年たっても試行錯誤は終わることがない。
inBlueのお客様
inBlueの客層は40代から80代の方、立場としては経営者の方が多いそうだ。inBlueのデニムスーツは価格が10万円前後だが、それを無理せず、気にせず、「あ、おもしろいね、1着いただくよ」という感覚で買う人に着て頂きたいという想いがあったそうなのだが、そのように思って、デニムスーツを作り、販売していると、思っていたような方が集まってきてくれたのだそうだ。経営者となると、スーツに関してそれほど周りに気を遣う必要もなく、所属する団体の会合など、ビジネスだが、普段の仕事より、ラフな場に出席する回数も多くなる。そういう場でデニムスーツは活躍するそうだ。

また、お客様の8割は県外からのお客様だそうだ。inBlueの店舗が美観地区内ということもあり、観光に来た際にたまたま立ち寄り、ここでしか買えないということで仕立てていく方や、何かでデニムスーツの存在を知り、問い合わせて、デニムスーツのためにわざわざ倉敷に旅行を計画する方もいるそうで、その割合は半々だそう。「地域貢献にもなったらうれしい」と美緒さんは話す。
会話を大切に
お客様は経営者の方が多いということで、働くスタッフは接客にとても気を遣うそうだ。経営者の方ともなると、すばらしい接客を経験していることが多いので、自分たちもそのレベルを目指す必要があると考えるからだ。そのため、日々、商品のことだけにとどまらず新聞、ニュース、雑誌、人との会話から、広く情報を得て、スタッフ間で共有することで自分のものとして蓄積していくようにしているそうだ。

接客のレベルを上げるには、知識をつけることも大事だが、それだけでは実践の場で活かせない。inBlueが目指しているのは、「居心地のいい空間」。会話がテンポよく進むと楽しく、居心地がよく思えるので、自然な会話を重視している。inBlueの目指す自然な会話というのはレスポンスのタイミングや、ちゃんと相手の言っている言葉を理解して、自分の言葉で会話をするということ。そのために、日ごろから、スタッフ間で、何気ないタイミングで、何気ない質問をして、頭の回転が速くなるように、お客様の言葉に素早く反応できるように、と、みなで高め合っているのだという。

inBlueの接客へのこだわりは強く、デニムスーツを広めるためにも、雑誌などの広告媒体は使わず、「あの店、雰囲気よかったな」「楽しい買い物できたな」という接客から受けた印象を覚えてもらい、「また来たい」「自分は買わないけど人に勧めたい」という気持ちから広めていきたいと考えているそうだ。

広告は出さないと言っても、雑誌の取材に応えることはあるそうだ。しかし、すべての取材に応じるわけではなく、「ジーンズ特集」には一切載せないようにしているようだ。ジーンズから離れようとデニムスーツを始めたのにも関わらず、ジーンズ特集に載るとまたジーンズの枠に戻ってしまうことになるからだそうだ。また、キャッチコピーに関しても「児島発」や「倉敷発」などをつけてしまうと、地域に頼らないと売れなくなってしまうので、避けているそう。デニムスーツ自体を見てほしいという想いから、このこだわりは生まれたのだ。
レディース用は作らない
inBlueのスタッフはみな、女性で、デニムスーツをかっこよく着こなして接客販売をされているのだが、レディース用デニムスーツは販売していないそうだ。女性は男性に比べ体系の差が激しいので、そこに合わせてつくるのは難しいのだという。また、女性のおしゃれは幅広いのに対し、男性は工夫できるところが素材やボタンなど限られているため、男性にフォーマルなおしゃれをもっと楽しんでもらいたいという想いがあって、デニムスーツの販売を始めたのだが、女性はおしゃれであるが故に、デニムスーツそのもののよさよりも、自分の体のラインの見え方など、細かい点を気にしてしまう。inBlueでは、素直にデニムスーツそのものの良さを感じ、「デニムスーツを着たい」と受け取ってもらえる男性に着てもらいたいということで、男性用のデニムスーツだけを販売し、今後もレディース用のスーツを作る予定はないのだという。

スタッフが着ているのは単純にお客様が見て、ここの店員さんかっこいいなと思ってもらうため、若い人からは私もここであんなふうにかっこよく働きたいと思ってもらうためだそうだ。
今後
今後はさらに接客力、ブランド力をあげて、基盤をしっかりとつくり、店舗を徐々に増やしていきたいという。何年後に全国何店舗展開という大きく展開をするよりは、知る人ぞ知るブランドという立ち位置でいたいそうで、inBlueを好きになってくれた方たちを大事にして、そういう方に好かれ、愛されるようなブランドにしていきたいそうだ。

店の運営に関しては、働いているスタッフが一生懸命仕事ができて、その人たちの生活も豊かになって、inBlueで働いていることが本当に楽しくて自分が輝いているというスタッフにとってもいい環境づくりがしたい、そう美緒さんは語った。
インタビュアーから
スタッフのみなさんの笑顔と細かい心配りがとても印象的なお店でした。様々な点でこだわりを持ちブランドを作り上げていくinBlue。ブランドを作り上げていくのは強い気持ちが必要ですがその分とてもやりがいがありそうだと思いました。