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双葉印刷という会社
双葉印刷株式会社は法人のお客様を中心に紙に対しての印刷と、OPP封筒と呼ばれる透明なビニールの封筒の印刷を請け負う小規模な印刷屋さんだ。扱う印刷物はスクラッチ、パンフレット、チラシ、ポスター、包装紙、封筒、丸うちわ等多岐にわたり、WEBページの強化や新技術の開発などの取り組みにより、取引先は全国に広がっている。
印刷屋さんのシゴトは職人のシゴト
家庭用のプリンタと、印刷屋さんの印刷機では大きな違いがある。

家庭用のプリンタを考えると、何色かのインクをプリンタにセットし、印刷用のデータをパソコンかSDカードのようなメモリーカードからプリンタに送ると、決まったものが印刷されるため、その操作を誰がしようとも、印刷される結果に違いはない。だから印刷屋さんの仕事も、誰がしても違いはないのではないか、と考えてしまいがちだ。

印刷の方式も、家庭用のことを考えると、インクジェットプリンタのようにインクを吹き付けて印刷する方式と、レーザープリンターのようにトナーと呼ばれる粉を紙に定着させて印刷する方式くらいしか馴染がないが、印刷屋さんではまた違った方式が採用されていることがあるという。

双葉印刷ではオフセット印刷という方式の印刷機を使っており、使っているインクは家庭用のインクジェットと同じようにCMYK(シアン(青っぽい)、マゼンダ(ピンクっぽい)、イエロー、黒)を使う場合もあれば、特色と呼ばれる調合によって作った色を使うこともある。この調合には熟練の技術やセンスが求められ、出来上がりの色に差がでてくるものだという。目的の色を実際の印刷物に印刷しようと思ったとき、そこには職人の技が求められる。
仕事の依頼を受けてから、納品までの流れ
▲双葉印刷の印刷機
オフセット印刷の受注を受けたときの最初の工程は、Macオペレーター(米アップルのMacintoshで画像の加工・調整をする人)がお客様から頂戴した画像データを確認し、次のCTPという工程に送っても大丈夫な状態にする。米アップルがMacを開発し、PhotoshopやIllustratorという画像加工ソフトウェアが世に出てから、この工程がアナログからデジタルになり印刷屋さんの仕事が劇的に簡単になったのだという。

次の工程がCTP(コンピューター・トゥ・プレート)といい、Macで調整した画像を印刷機に送ると、印刷版にレーザーを照射し、画像を焼きつける。この印刷版は、使用する色と同数が必要になるため、4色フルカラー印刷をするときには、4枚の印刷版を作成する必要がある。

次が実際に紙に印刷をしていくオフセットという工程。オフセット印刷とは実際に印刷する画像が焼き付けられている印刷版に付けられたインクを、ゴムに転写(offset)したうえで、紙に印刷するという印刷方式だ。

大量に積み上げられている紙を吸盤のようなもので一枚一枚送った先に、4台の機械が並ぶ。それぞれに1色ずつのインクがセットされており、前工程のCTPで作成した印刷版を巻き付けてあり、それぞれの機械で1色ずつ印刷していく。特色の印刷をするときには、インクを一度すべて抜いて、きれいにクリーニングをした上で特色のインクを流し込むそうだ。

双葉印刷が使っているオフセット印刷機は1時間に約11,000枚の紙を印刷できる性能を持っているので、上の工程は1秒間に3枚というスピードで行われる。

オフセット印刷の次の工程は断裁という工程。家庭用プリンタの感覚では、印刷したいサイズの紙をプリンタにセットすることが多いのだが、このオフセット印刷で使われる紙は全て同じサイズ。そのサイズの紙を断裁機によって目的のサイズに切っていくのだ。

断裁し目的のサイズになった紙を梱包し、出荷することで一連の工程が終わる。インクの乾きづらい特殊な紙を使っていなければ、双葉印刷では100万枚ほどの印刷を1日で終えることができるのだという。
地方の印刷屋さんを取り巻く状況
印刷業界や、双葉印刷のように地方の印刷屋さんを取り巻く状況は、決して明るいとは言えない。格安のオンライン印刷の影響だ。インターネットは距離と時間の制約を無くすという特徴から、いままで近くの印刷屋さんに頼まなければならなかったお客様も、オンラインで遠方の印刷屋さんに頼むことができるようになった。オンラインの印刷屋さんの中には、もともと印刷業を営んでいなかったがSEOと呼ばれるインターネットの検索で上位に表示させることの得意なIT事業者が、印刷設備を持たず、印刷は下請けに出すという形で参入することもでき、全国で価格破壊が起こった。地方の印刷屋さんや、直接お客様から受注をする広告やさんも、インターネットの価格と比較され苦しんでいるという状況があるようだ。

もともと、印刷業というのはとても差別化の難しい業種のひとつ。目的の色を出せるという職人技を持ち、高品質を売りにしても、少し色が違っても安い方がいいと言われるお客様は少なくない。価格によって決まるところが大きい。そのため、価格競争と営業の人間力で激しい競争をすることになる。
競争のないステージに導いた救世主「コスッチ」
その状況のなかで、このままでは未来がなくなる。双葉印刷でしかできない特徴を作ることはできないか?と安藤さんは考え始めた。

そして世の中にニーズのあるもので、隙間を狙うと決め、けずりかすの出ないスクラッチの開発をスタート。スクラッチは宝くじなどに採用されている銀色の部分をコインでこすると、銀色の部分がけずれて隠れていた文字が見えてくるというものだが、開発したかったのは印刷技術によりコインでこすると文字が浮かび上がるものだ。この新技術開発には二年半かかったという。最初はけずる前から文字がまったく隠れていなかったりということもあり難航した。二年半かけ技術を完成させ、コスッチというキャラクターもつくり、世に送り出す準備が整った。
これで二年半の苦労が報われるという思いで馴染のお客様に営業に回ったのだが現実はそんなに甘いものではなかった。一年間全く注文が入らなかったのだ。全く売れないものに三年半もかけ、社長からは「そんなことしているヒマがあったら1件でもお客様回って来い!」と言われたこともあるそうだ。それでも諦めずに、そこから「時代はインターネットだ」と思い、売り方を直接営業からWEBへと移すことを考え、価格体系を分かりやすく表示させたり、注文を自動で受けられるようにシステム化したり、一年間かけてWEBを整備し、ようやく注文が入り始めた。

いまでは毎日問い合わせがあり、この日も静岡から受注した29万枚のスクラッチを印刷していた。いまでは印刷物の半分以上がスクラッチだという。

技術開発から四年半かけ花開いたこの技術は、独自技術のため他の印刷屋さんとの競争にならない。そのため削りかすのでないスクラッチ「スクラッチ王」は双葉印刷を価格競争の世界から、競争のないステージに導く救世主になった。

▲けずりかすのでないスクラッチ

▲コスッチ

成功を支えたのは社員
技術開発に二年半もかかり、その後花開くまでさらに二年もかかったのにも関わらず途中で諦めず、ここまでできたのは、安藤さん自身の負けず嫌いな性格もさることながら、社員の協力が大きかったようだ。「一人でずっと考え、ずっと上手くいかないことを繰り返したら心が折れますよ。二年半も持ちません」と当時を振り返って安藤さんは言う。

毎週土曜日に未来について考える会議をしている。現場の人もみんな集まって、どんな新商品を作るかなどについて、活発に意見を出し合っている。また火曜日には営業とMacオペレーターの人だけに集まってもらってのミーティングもしているのだそうだ。

社員も一緒になって未来を考えてくれるから、ここまで諦めず頑張ることができたのだという。
苦労して手に入れた成功は次の成功につながる
▲丸うちわ
双葉印刷の最近の売り上げ増は、独自技術のスクラッチ王だけではない。
丸うちわと呼ばれる一枚丸い厚紙に指を入れる小さな丸い穴が空いているもので、配布する広告として、またそのままDMとして送ることもできるうちわを取り扱っているが、その丸うちわの販売量は昨年と比べて4倍になった。

その理由は、スクラッチ王を販売につなげるために試行錯誤したWEBページによるところが大きい。お客様がWEBページを見てわかりやすく簡単に注文できる仕組みと、検索で上位に表示される努力をしていたため、全国からの発注がきて、販売量が4倍になったのだ。

努力して得た成功は、そこに留まらず次の成功につながっている。
インタビュアーから
印刷屋さんの仕事のイメージは、機械が行うものでミスさえしなければ誰がオペレーションをしても変わらない流れ作業のような仕事をイメージしていました。しかし仕事の中味を知るなかで熟練した人でなくてはできない職人の仕事。そして市販の機械、市販のインクを使ってスクラッチ王のような新技術の開発もしていける、とてもクリエイティブな仕事なのだと新しい発見でした。