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株式会社いのうえ という会社
株式会社いのうえは、2013年に創立100周年を迎えた老舗企業だ。岡山県にエヴァホールと一日一件の貸切式場ファミリエを13施設構えた葬儀社で、市民生活支援センターも運営している。いのうえグループには、ほかにも、仏壇仏具を取り扱うほうりんやペットの葬儀をするペットピアなどもある。
葬儀社が抱かれるイメージと実際のギャップ
葬儀社のイメージとはどんなものだろうか。なかなか触れる機会がないので、「葬儀社=暗い」「葬儀社で働く人はみんな笑わないのではないか、寡黙なのではないか」などと思われていることが多いという。

しかし実際はそうではない。葬儀は、亡くなられた方にとっては、最期の節目の儀式であり、遺された人にとっては、亡くなった方が思い出になって残っていく節目で、亡くなられた方らしい葬儀になるように、ご当家の方とお話をし、亡くなった方のことを深く知っていかないといけない。寡黙では務まらない仕事だ。もちろん、話をしていく中で、笑うことだってある。

亡くなられた方に対しても、よく話しかけるそうだ。例えば、亡くなった方をストレッチャーで運ぶときには「揺れますよ~」と声をかける。これは、実際に、新入社員研修で、ストレッチャーに乗って運ばれる体験をしているので、上に乗っている方は揺れたら怖いということが実体験としてわかっているからだ。ほかにも、車が変わるとき、棺に入れる時、すべて声をかける。

大切にするのは、亡くなられた方だけではない。いのうえは遺されたご家族のことも大切にする。葬儀が終わった後に自宅に伺い「元気ですか~?」と声をかけ、時には、話し相手になり、時には仏壇仏具など必要なものの準備を手伝うこともある。その関係の中で、ご家族からは、「たまねぎたくさん取れたから取りにおいで」と声をかけてもらうこともあるそうで、葬儀後も深い関わりは続く。実際に、山本さんは、人と話すことが好きだから株式会社いのうえに入社しようと思った、と語る。

葬儀社のイメージとしては、ほかにも、「葬儀中に泣いてはいけないのではないか」という質問もよく受けるとのこと。このことについて、「人が亡くなった状況を見て、何も思わなかったらこの仕事はできないと思う」と宮地さんは話す。ただ、同じ気持ちになって、泣くこともあるが、業務に支障をきたすわけにはいかない。宮地さんは「医者のような気持ちで」葬儀を運営しているという。医者というのは、例えば、患者さんがお腹が痛いとやってきても、それを見て、同じようにお腹が痛くなる訳ではなく、「たぶんこう痛いんだろうな、この痛みはどうすれば早く治るかな、もしメスをいれるんだったら一番負担が少なくてすむにはどのようにしたらいいだろうか」と、患者さんの立場にはなれないけれど、立場を察しながらどう手を差し伸べるかというのを考える。それと同じで、葬儀の担当者も、いい意味で、第三者としての立場の中で、ご遺族を俯瞰し、一番良い方法で手を差し伸べるのだ。
仕事の流れから見えてくる人と人との深いつながり
誰かが亡くなると、病院やご家族から亡くなったので迎えに来てほしいという電話が入る。ここからがいのうえの仕事だ。寝台車でお迎えに行き、自宅や葬儀会館など、ご家族の希望する場所にお送りし、そこで「葬儀をエヴァホールさんでお願いします」とご依頼をいただいたら、日程などご当家と話をし、ご寺院や斎主様などの宗教者の方、ご町内の方と打ち合わせをし、それに基づいて、お通夜、ご葬儀を運営管理していく。その際、葬儀は、担当者一人では運営管理することはできないので、ご家族から聞いた話などを、葬儀に関わるスタッフと共有しながら葬儀を運営してゆく。

ご当家と葬儀について打ち合わせをするときには、祭壇や棺など決めなければならないことはたくさんある。打ち合わせでは、「祭壇はどうされますか?」「棺はどうされますか?」などと、事務的に聞くのではなく、故人様自身のご希望があったのか、どういう方だったか、何が好きだったかなど、いろいろな話を聞く中で、故人様らしい葬儀の必要品や演出を考えるそうだ。

山本さんが、ご遺族と葬儀の打ち合わせをしていたときのこと。少し離れたところで親戚の方が、「あ~ゴルフが好きじゃったのになあ。最後まで行きたいって言ってたのに、行けんかったなあ」と話をしていたのを聞き、葬儀の時に、式場の前に、芝生を貼り、ゴルフ場をしつらえ、棺の中には、燃えないため入れることができない本物のゴルフクラブの代わりに、子供用のゴルフセットを買ってきて、持たせてあげたそうだ。

葬儀には宗教によって決まった型があるのかと思うが、宗教者によって、「こうしなきゃいけない」という部分は違うそうだ。そこで、「こうしなきゃいけない」という部分を守りながら、どれだけ故人様らしい式にできるか工夫しているそうだ。

こういった演出は、ただ仕事だから葬儀の一連の流れさえすればいいと考えている人からは生まれてこない。本当の意味で故人様、そしてそのご家族のことを大切に考え、どうしたらその人たちのためになるのかと心を砕くことから生まれてくるのだ。

葬儀後も、葬儀の担当者とご当家の間に、とても深いつながりが続くのは、こういった相手がわらにもすがりたいと思うぐらい大変な状況にいる中で、心底から相手を思って関わっているからだろう、と宮地さんは言う。非日常な状況の時に、冷静に、手を差し伸べ、故人様のために、ご家族のために、どうすればいいのかと一番に考えて、ご家族の気持ちを汲み取りながら濃く接しているので、深いつながりが生まれるのだ。
アフターフォローから生まれた新しいサービス
葬儀の担当者とご家族の付き合いは葬儀後も続く。そのつながりの中で、自宅にお伺いして話をしていると、「こんなこと困っとるんよ~」と相談されることが多くなってきたという。以前は担当者レベルで、対応をし、解決をしていたが、相談を受ける頻度や、法的な専門家の対応が必要になるものが多くなってきたため、2010年に相談を一手に引き受ける窓口として「市民生活支援センター」を倉敷と岡山にオープンさせた。

相談内容は葬儀の枠にとどまらず、生活全般における問題や不安などなんでも聞いている。市民生活支援センターのコンセプトは「よりよく生きるから、よりよく最期を迎えられて、よりよく次へつなぐことができる。そのためのお手伝いをしましょう」ということ。今を楽しく豊かに生活するためのお手伝いを、支援センターとして行い、最期を迎えたときはエヴァホールでお手伝いをする。そのあとの手続きなど、困ったことがあれば、また、支援センターでお手伝いをする。そんな生活全般を支える、『総合生活支援企業』としての具現化を行っている。
いのうえが守り続けるもの、なくしてはいけないもの
いのうえの根幹の事業は葬儀を執り行うこと。以前は自宅で執り行っていた葬儀も、ホールで行うようになり、葬儀の形も近年では、家族のみで行うなど、様変わりしている。供養の仕方も、以前のお墓ではなく、散骨や、樹の下に遺骨を埋める樹木葬など、多様化してきている。この流れを考えると、葬儀自体がなくなってしまうようにも思える。しかし、葬儀という儀式は、なくしてはならないものだ、といのうえは考える。

『葬儀は儀礼文化である』というのが、いのうえが持ち続けてきた哲学だ。葬儀は、亡くなった人の最後の門出の儀式であるだけでなく、送る側の人々にとって、心に区切りをつける儀式でもある。日本では、人が亡くなると、通夜をし、葬儀をし、その後は法要をし、と儀式的に段階を踏んでいく。このように儀式として、段階を踏んでいくことで、送る側も、気持ちの整理が徐々にできるようだ。世界的に見ても、亡くなった方のご家族が平常の生活に戻っていくスピードは、儀式だって人を送る日本が一番早いそうだ。

儀礼文化としての葬儀を大切に守り続けることは、先祖を敬い、先祖に胸をはれる生き方をしようとしてきた、日本人の心を守ることにつながる。だからこそ、いのうえは葬儀を守っていくのだ。
インタビュアーから
葬儀は宗教に絡むものなので、型にはまったものを厳密に執り行うだけの仕事だと思っていました。しかし、亡くなられた方それぞれに合わせて、葬儀の演出を変えていると知り、驚きました。また、葬儀はただ亡くなった方のためのものではなく、その周りの人にとっても、必要な節目であるいうことも知り、葬儀を行うということは奥が深いことだと思いました。