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明和製紙原料という会社
明和製紙原料株式会社は1948年に創業し、岡山で古紙を回収し、紙の再生をするための原料をつくり、販売している古紙のリサイクルをしている会社だ。「人のお役に立つ、最先端の古紙屋であれ」という経営ビジョンのもと、次々と新しいことに取り組み、中四国でもトップクラスの規模に成長している。
どんな仕事で誰の役にたっている仕事なのか
明和製紙原料の仕事は、家庭や学校、職場ででる、使い終わっていらなくなった紙(これを古紙という)を捨てないで、集めてくださいとお願いし、集まった古紙を「古新聞・折込チラシ」「ダンボール」「紙パック」「古雑誌・雑紙」というくくりに分別し、それぞれを巨大なプレス機でギュッと固め1トンほどのかたまりにし、製紙会社に販売をするという仕事だ。

古紙を直接集めることもあるが、ちり紙交換の業者や、市区町村で回収している月に1~2回の資源化物の回収で集まったもの、また小学校のPTAが集めてくれた古紙が集まってくる。
リサイクル業は「静脈産業」と呼ばれている。新しい血液が身体中にゆきわたり、役割の終えた血液を心臓に戻す働きをする静脈のように紙製品として世の中にゆきわたり、役割を果たした紙を、また新たな役割を持たせて世の中にゆきわたらせることを仕事とするのが静脈産業だ。

静脈産業の特徴の一つとして、製紙会社のことをパートナーと呼び、古紙を集めてくれる人をお客様と呼ぶというところがある。通常の産業ではお金を払ってくれる人をお客様と呼ぶので、製紙会社をお客様と呼ぶと思ってしまいがちだが、お客様は古紙を集めてくれる人だ。

なぜ、お金を払ってくれる製紙会社よりも、古紙を集めてくれる人をお客様と呼ぶのだろうか。

それは「古紙は造りだせるものではないからだ」と小六社長は言う。

日本全国で使い終わって古紙となる紙は、造りだしているのではく、自然と湧き出てくる資源に近い。この有限の資源をいかに多く集められるかで、収益が変わる。いくら製紙会社の担当者と仲良くなって、良い条件で製紙原料を購入してくれる約束を取り付けても、肝心の古紙が集まらなければどうにもならないのだ。

だから、明和製紙原料の営業部の人は、製紙会社よりも、古紙を集めてくれるお客様を訪問する頻度が高くなる。
紙をとりまく環境はどう変わっていく?
古紙の総量は年々少なくなっていき10年後には10%くらい減っているのではないかと小六社長は予想している。紙には2種類あり、1つは化粧品の箱、お菓子の箱のような包材として使われる紙で、もう一つが新聞や雑誌、地図や名刺などの活字が載っている情報媒体としての紙だ。包材としての紙は前年同月と比較しても減ってはいない。しかし、情報媒体としての紙は前年同月と比較して3%くらいどんどん減り続けている。その原因として、若者の新聞離れが進み、少年誌などの雑誌の発刊数の減少や、地図もナビや携帯に、切符も電子マネーに変わっていったことなどがある。人口減と、紙そのものの利用が減っているので、今後もどんどん厳しくなっていく。紙が減っていくと明和製紙原料の商品である古紙が少なくなり、それにともなって利益が確保できなくなってしまう。そこで今よりも多くの古紙を集める方法と、集めた古紙の新しい用途を考え利益率を高めていく方法を考えている。
今よりも多くの古紙を集めるために何をしているのか
▲ポイント制古紙回収
今よりも多くの紙を集めることに対して始めたのがポイント制の古紙回収だ。
スーパーと提携して、駐車場のスペースに古紙回収の機械を置かせてもらう。スーパーにきた方が買い物のついでに家にあった古紙を持ってきてこの機械に入れると、重さを計算して1kgごとに1ポイントがカードにたまっていく。500ポイントたまるとそこのスーパーのお買物券500円分と換えることができる仕組みだ。

これによりお客様は、ちり紙交換の人がくるのを待つことなく、市区町村の月に1~2回の資源化物の日を待つこともなく、自分の都合のよいときに古紙を処分することができ、お買物券により家計が助かると、喜ばれ、大ヒットしている。

設置するスーパーも、お買物券は事前に明和製紙原料が一括して買い上げをするので、駐車場2・3台分のスペースを貸すだけで、お客様の満足度があがり、お客様の囲い込みとなり、CSR(企業の社会的責任)を果たすことにもつながり企業のイメージアップにもなるので、東は愛知県から西は広島県まですでに50店舗と提携ができている。

他の古紙回収の業者と古紙を取り合っている状況のなか、このポイント制古紙回収の機械で回収された古紙は明和製紙原料にしかこない。明和製紙原料が新聞を8円で買うと言っているときに、他社が10円で買うとなればそっちに持っていってしまうので、ちり紙交換の業者が回収した古紙は他社にまわることがあり、集まる古紙の量は予測できず不安定だ。その点ポイント制古紙回収では100%が自社にくるので設備投資は必要なものの安定して古紙を集めることができる。いまではこのポイント制古紙回収から全体の利益の約25%を稼ぎだすまでになっているそうだ。

この他に機密書類処理工場「リバースプラザ」を岡山に、「けすぷろ」を大阪に建て、企業の、「情報漏えいのリスクを回避したい」という需要に応えている。普段の機密書類はシュレッダーで細かくして日常のゴミと一緒に捨てる会社も多いのだが、企業が法的に保管しておかなければならない書類の破棄は莫大な量なので、シュレッダーで処理するわけにもいかず、すべてファイルにとじている機密書類の山を分別し、機密書類を破棄してくれる業者に頼むことになる。明和製紙原料の工場ではファイルにとじたまま、ダンボールに詰めてある機密書類を引き取りに行って、そのまま粉砕することができ、お客様は分別の手間がかからない。しかもそのコストはシュレッダーの処理コストより安い。

この機密書類の処理は一度使うとその便利さと信頼、そして価格から10年、15年という長いスパンで企業との付き合いが続く。

もともとお金を払って古紙を集めている古紙回収のなかで、この機密書類は逆に企業からお金をもらって回収し、粉砕した古紙をそのまま製紙会社に販売できるので利益率も高い。

このように、今よりも多くの古紙を集められるように対策を打っている。
集めた古紙を製紙会社に売るだけがすべてではない
▲古紙の上で栽培しているきのこ
集めた古紙は製紙原料の会社ではプレスして、かたまりにして、製紙会社に販売するのが一般的だが、その枠にとらわれず、明和製紙原料では古紙の新しい用途を考え、利益率を高めることに成功している。

たとえば、古紙を粉砕して牛舎や豚舎の床にしく敷料「古紙敷料あんしん君」がある。昔はワラをしいていたが、最近は稲刈りのときに機械で刈り取ってしまいワラが小さくなりすぎて敷料にはならず、オガクズなどを敷料として使っている農家さんが多い。しかしオガクズはもともと雑菌を保持しており、その上に牛が排泄すると、雑菌が繁殖し、その上に座ることで乳房に菌が入り乳房炎を起こしてしまう。その点、紙は製造するときに高温で乾かすため雑菌はほとんどいない。オガクズの代わりに古紙敷料あんしん君を敷くことで牛が乳房炎にかかり、牛乳を生産できなくなるということを防ぎやすくなるため、畜産業界に喜ばれているのだ。

また、古紙は雑菌が少ない特性から、キノコの菌床としての利用が着目されている。長野のキノコ栽培業者にキノコのポット栽培用の古紙を販売し、今後は自社でもキノコをつくっていくことも視野に入れている。

他には、東北大学の高橋教授が発明し、森環境技術開発研究所の森所長が特許をとった「ボンテラン工法」にも古紙が使われている。

ボンテラン工法とは、ヘドロに古紙を小指大に粉砕したかたまりと高分子硬化剤などの薬品をまぜてかくはんすることで、ヘドロを再利用可能な土、リサイクル土にする技術だ。

東日本大震災の影響で東北には大量のヘドロがたまっている。川にヘドロがうまり、川の流水量が減ってしまっているので、大雨が降ると川が氾濫するという危険がある。そのため川底のヘドロを回収する必要があるのだが回収したヘドロをどこに捨てたらいいのかという問題があった。

そこでボンテラン工法でヘドロをリサイクル土に変え、道路や堤防、仮設住宅の建設用の土として使えるようにしているのだが、東北だけでは古紙が足りないので、岡山からも送っているのだ。

このように、もともと製紙会社に販売するだけだった古紙の新規用途を考え、利益率を高くすることに成功している。

また日本での情報媒体としての紙の需要が減ってきていることをうけて、今後は紙をまだまだ必要とする国に製紙原料を販売することも視野にいれている。
社名である「明和製紙原料」の枠におさまらなくなってきた
▲リバースプラザ
古紙の新規用途を考え、事業が拡大していくなかで、明和製紙原料という原料に特化した会社名では、事業を表す名前としては手狭になってきた。小六社長が65歳になる2022年には小六社長は会長職に退き、息子に会社を任せる計画だが、それまでに各事業を一つひとつのカンパニーとして自立させ、各会社を束ねるホールディングス会社を設立する下地を作っていきたいと小六社長は言う。

機密書類処理工場のリバースプラザや、大阪のけすぷろも一つの会社として、新規用途の事業も一つの会社として、技術部も独立させていきたいと言う。

古紙回収の会社に技術部があるのか、と疑問に思うかもしれないが、市販の古紙のプレス機はあまり性能がよくないので、機械の故障で作業が中止することや労災が起きることがある。そこで、効率をあげ、労災も起こらないようなノンストップで古紙を処理していけるように、自社の技術部でプレス機を自社開発していて、今後も強化してく。また、ポイント制古紙回収の機械も自社開発だ。

現在はまだ手を付けていない事業も「もったいない」「静脈産業」というキーワードをベースに、将来やりたいことはたくさんあると言う。この日本という国は地下資源がほとんどない国なので、地上資源が大切になってくる。たとえば「木」は、国土の80%が森なのだから、計画的に伐採して、植えていけば計画的に採集できるので枯渇しない資源になる。真庭市では林業から生まれる木を使ったバイオマス発電で市全体のエネルギーをまかなっている。

また、「食」の分野では、現在、日本では食料自給率は四割弱で六割を輸入でまかなっている状況だ。しかし世界中から輸入している食材をまだ食べられるのに賞味期限切れや消費期限切れだと一日に3000万食も捨てている。一部を飼料に活用しようとしているが、こんな状況だといずれこの国はおかしなことになってしまうと危惧し、リサイクル屋として何かできることはないかと考え、フードバンクという構想を考えているという。フードバンクとは賞味期限切れ、消費期限切れで廃棄される食材を無料に近い金額で引き取り、生活弱者に配り救済するという事業だが、おそらく儲けはほとんどでない。それでも捨てるよりはよっぽどいいと小六社長は言う。

お金や財務体質の制約がある中で、構想の全てを同時に実行することはできない。会長職に退くまでに優先順位をつけて形にしていき、若い人と一緒に実現していきたいと考えると、ホールディング会社を作ることが必要になる。各事業をカンパニー制にすることで、たくさんの人を社長や専務にすることができるため、若い人も夢を描き、活躍できるフィールドが広がるからだ。実際に、この計画に闘志を燃やす責任者は多いという。

「一人ひとりの成長と幸せに力を尽くす」という明和製紙原料の経営理念に沿った計画だ。
経営理念に生きる
▲経営理念
私たちは、
お客様の満足に心を尽くし
一人ひとりの成長と幸せに力を尽くし
古紙のリサイクルに想いを尽くして
社会のお役に立ち続けます

この経営理念は小六社長が45歳のときに、社員と一緒に10か月かけて作ったものだ。
それまでも小六社長が頭をひねり、素晴らしい理念を作っていた。ただその理念をいくら伝えても社員の頭には入っていかなかった。以前の理念は小六社長が一人で考えた経営者のための理念だったもので、お客様や社員のことは書かれておらず、社員は自分事と考えられなかったのかもしれない。

45歳でこの経営理念を掲げた小六社長は、それ以後この理念に沿って生きている。
年間休日が70~80日だったのは社員の幸せに力を尽くしていないということで、114日に増やした。残業時間は10分単位でつけられるようにして、社員の幸せを守るための法律は全て守ることを徹底した。

「古紙のリサイクルに想いを尽くす」という文言もあるので、旅行に行き、外食をしたときにでる箸袋もズボンのポケットに入れて持って帰る。そのままにしたらゴミになるのは目に見えている。古紙のリサイクルに想いを尽くすと宣言しているのだから、経営者である自分が徹底していかなければ、社員に浸透なんかするわけがない。その小六社長の言動一つひとつが明和製紙原料のらしさを作っている。
会社の考え方や想いはどうやって社員全体に浸透していくのか
▲社長通信をもつ社長
組織全体にこの考え方や想いを伝えるために、日々の朝礼で伝えたり、毎日、社長通信というメッセージを配信している。そして毎日一人の社員にハガキを書き自分の考えを伝えるということを36歳から21年間続けている。毎日30分くらいかけて書くということなので相当な作業量だ。社員数が70名くらいなので70日でまた同じ人にハガキが届くのだが、直接渡すのではなく家に届くようにするので、このハガキは社員本人だけではなく、その家族の目にもふれる。こんな想いの社長のもとで働いているということが家族にも伝わる。また家族参観日という制度も導入しており、「夏休みや冬休みに職場に旦那さんや奥さん、子どもを連れてきなさい」としている。自分達の働いている姿を見せ、大変さを伝え、その想いをご家族の方に語ってもらえるように。

こういった小さなことの積み重ねによって少しずつ社員に想いが伝わっていく。
インタビュアーから
「もったいない」という強い想いが根底にあり、そこから古紙のリサイクルにとどまらず、食やエネルギーなどの多くのものを再利用する事業が生まれていく。「もったいない」をなんとかしたいと思う人が夢を持って働ける環境とステージのある会社だと強く感じました。