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『麹』の委託加工から始まった まるみ麹本店
▲ まるみ麹本店の看板
まるみ麹本店は総社市美袋(みなぎ)の地で昭和25年に創業し、麹(こうじ)の委託加工から始まった会社だ。現在は麹、味噌、甘酒など米や大豆を発酵させてつくる食品・調味料を製造し販売する仕事をしている。
鎌倉武士の栄養を支えた『味噌』、その原料の『麹』
『味噌』は1000年以上前から日本人の食卓に並び、今もなお廃れず、形を変えず親しまれている日本の代表的な調味料の一つだ。今ほど食や栄養に恵まれていなかった時代、鎌倉武士の食事は一汁一菜と言われ、玄米でカロリー、干物からカルシウムとたんぱく質、味噌で栄養を摂取していたと伝えられているほど、味噌は栄養価が高く、健康な生活に不可欠な調味料として重宝されていた。味噌が体にいいのは単に栄養価が高いだけではなく、大豆を、麹を使って発酵させることにより、大豆のまま食べるより、消化・吸収がされやすくなるという理由もある。

『麹』は味噌の原料の一つで、米や麦、大豆などの穀物に麹菌が生育したものだ。麹菌は日本酒、味噌、醤油、鰹節などの原料となるカビの一種で、2006年に国菌と認定されているほど、日本に馴染の深い菌として知られている。

▲ 鎌倉武士の栄養を支えた『味噌』

▲ 味噌の原料となる『麹』

農業の変化による味噌の危機
▲ 麹の原料となる『米』を育む田んぼ
まるみ麹本店が創業した頃の農家は、牛を引いて田畑を耕し、肥料も牛の堆肥など自然そのものだけで行われていた。米を作る農家から米を預かり、その米を米麹に加工して農家にお返しをするという麹の委託加工という仕事を営んでいたところ、預かる米の異変を感じるようになっていったのだそうだ。

蒸した米に種麹を散布し、米の表面に麹菌が生育することで米麹になっていくのだが、米によって麹菌の生育が進む米と、進まない米が出てきたのだという。農業の近代化が進み、農業機械や化学肥料を早いうちから使いはじめていた県南の農家から預かる米は麹菌の生育が進まず、近代化の波が遅れた県北の農家から預かる米は従来通り麹菌が生育していたようだ。

この米麹の目に見えないところの変化は、最終製品である味噌づくりにも影響を及ぼす。農業が近代化したことによって、農作物は工業製品のように大量生産ができるようになり、安定的に食料が調達できるようになった一方で、食材本来の力は失われていったことを感じた創業者の山辺光男氏は、自然本来の食材の力を取り戻すための方法を模索し始めた。
失われた力を後から付加するという考え方『電子技法』
自然のままの農業から、農業機械や化学肥料を使う農業になって変化するのは土壌なのだそうだ。農業機械や化学肥料、酸性雨などにより土壌が酸化してしまうと、その土壌で育つ作物も酸化したものができる。この違いはとても大きいのだそうだ。よく肥えた柔らかい土の畑に種を蒔いたときと、運動場のように固く踏み固められた土の畑に種を蒔いたときでは、根の生え方に違いが出る。柔らかい土壌では根は健やかに伸び、固い土壌では根はなかなか伸びていかない。酸化している米は固い土壌と同じように麹菌の胞子が根をはりづらく、麹の生育が不十分になってしまうのだ。

山辺光男氏がたどり着いたのは電子技法というものだった。電子技法は酸化したものに電子イオン(マイナスイオン)を付加することで還元作用を起こし大豆や米を自然本来のあるべき姿に戻すという考え方だ。

この考え方を実践するために、まるみ麹本店の工場は床下、壁、天井を備長炭で覆いマイナスイオンの多い環境にしているのに加え、水を電子イオン水にするための装置を導入し、大豆や米を浸す水や、空気中への電子イオンの散布も行っている。

実際に米や大豆を電子技法により還元すると、昔のように米に麹菌がすくすく生育していき、良質な麹を作る事ができたのだそうだ。

▲ 備長炭で覆われている『炭蔵』

▲ 水を電子イオン水にするための装置

『食』とは生命を育てるもの
まるみ麹本店では塩にもこだわっている。昔、塩を作るときには、海水を煮詰めたり、太陽の光で蒸発させて作る自然塩が主流だったが、1971年からイオン交換膜製塩法が開発され、NaCl(塩化ナトリウム)の純度が限りなく100%に近い精製塩が広まっていった。実は、海水のミネラル組成は人間の体液とほぼ同じで、自然塩に含まれる不純物であるミネラルは健康的な体を維持するのにとても有用にも関わらず、精製塩ではその不純物のほとんどが取り除かれてしまうのだ。

自然塩で作る大根の塩漬けを拡大してみると、細胞一つ一つから水分が抜けて押しつぶされたようになるのだが、精製塩で作る大根の塩漬けを拡大してみると、細胞一つ一つが破壊されているのがわかる。米麹の原料である米や味噌の原料である大豆はマイナスイオンを付加すればいいが、存在していないミネラル成分を後から付加することはできないため、まるみ麹本店では、自然海塩を使っている。

酸化された米や大豆、精製塩を使っても麹や味噌を作ることはできる。むしろそうした方がコストを抑えて大量に安定的に製造することができる。しかし、山辺社長は「食は生命を育てるものであり、工業製品とは全く違うもの」という考え方を持っているため、原料や製法に強いこだわりを持っているのだ。
「本来人間の胃腸は発酵体として食材を分解して吸収しやすい形にする機能が備わっているため、あえて発酵食品を食べなくても問題ないのだが、長期間かけても麹菌が発酵を進められない食材を、どうやって腸内細菌が分解することができるのか」と山辺社長は言う。

▲ 食について語る山辺啓三社長

▲ 味噌の出来上がりを見る山辺啓三社長

設備から人へ
まるみ麹本店は、麹や味噌を自然本来の力を引き出せるように原料にこだわり、設備を整えているのだが、麹や味噌が健やかに育つ風土だけではなく、人が健やかに育つ風土を作っていく必要があると山辺社長は考えている。麹づくりは、原料である米を水に浸し、蒸して、種麹を散布して熟成させる仕事。味噌づくりは、原料である大豆を水に浸し、蒸して、つぶして、米麹と塩とまぜて熟成させる仕事。麹や味噌が健やかに育つ環境を整え、やるべきことをやるべきときに行うことでできる仕事なのだが、その仕事に携わる人によって出来に違いがでる。ただ麹や味噌を作ることだけを考えていたら今のまるみ麹本店の作る麹や味噌にはなっていない。食とはどうあるべきか、麹や味噌はどうあるべきか、自然天然とはどういう状態なのか、というところに感性を傾けていたから今のまるみ麹本店がある。

人育ても同じようにその人の本来あるべき姿、特徴を考えて育ちやすい環境を作る必要があると山辺社長は考え、これからは人が育つ風土づくりにも力を入れていくのだそうだ。

▲ 味噌をならしている社員

▲ 麹を袋詰めにする社員

インタビュアーから
味噌についてこんなに深く考えたことはなかったので、インタビューをさせていただきとても勉強になりました。そして、食と工業製品は違うという言葉が頭に残り、自分の体に入れるものについて考えさせられました。