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キョウエイ藤原保険事務所という会社
▲ 下石井の事務所
有限会社キョウエイ藤原保険事務所は、岡山市に拠点をおく保険の代理店だ。1976年に共栄火災の損害保険の販売をする専属代理店として始まり、2001年には生命保険も取り扱うようになり、現在では総合金融業として仕事の幅を広げている。
損保と生保ってどんな保険?
保険の仕組みは、いざという時の損害に備えて加入者全員でお金を積み立てていき、損害を被ったときに積み立ててあるお金から、加入者の損害を補てんすることで、経済的に助け合うという「相互扶助(そうごふじょ)」の仕組みだ。

大きく分けて保険には損保と生保の二種類がある。

損保(損害保険)とは、モノに関わる保険だ。身近なところでいえば自動車保険がある。また家を所有していると自然災害に備えて加入する、火災保険や地震保険、盗難に備えて加入する盗難保険などがある。

また、生保(生命保険)とは、ヒトに関わる保険だ。病気やケガ、そして死亡というアクシデントはいくら気をつけていても完全に防ぐことはできない。生保は自分がケガや病気で入院しなくてはいけないとき、自分が死亡したあと家族を支えるための備えになる。また、公的年金だけでは老後が不安という人に対しての年金保険や、子どもの学費のために積み立てる学資保険なども生保の分野だ。

最近は損保、生保というくくりでは分類しづらい保険もでてきており、介護保険や、ガン保険などは第三の保険と呼ばれている。
保険代理店とネット保険
キョウエイ藤原保険事務所は保険代理店という形態でお客様に保険を提供している会社だ。保険代理店というビジネスの形態は、保険会社の扱う保険商品を販売する代理店契約を結んだ事業者が保険商品を販売すると、保険会社からその契約金額に応じた販売手数料が入ってくるという形態である。契約者が多くなればなるほど掛け金と支払額の確率が安定するという特性をもつので、保険会社が契約者数をいち早く増やして経営を安定させるためには、自社で大量の営業部隊を準備し、トレーニングするより、多くの代理店と契約をする方が効率が良かったため、保険は代理店が販売するというケースが一般的だった。

保険の販売は、保険代理店で販売をする他にネット保険、ダイレクト保険と呼ばれる、人と関わることなく保険の契約ができる形態のものが1996年、アメリカンホーム保険会社を皮切りに始まった。インターネットを介して保険会社と保険契約者が直接契約を行うことができるため、保険代理店経由での契約と違い、保険会社は代理店手数料を支払う必要がない。その手数料分を毎月の保険料から割り引くことができるため、契約料は割安になる。

この流れを考えると、保険代理店は淘汰され、ネット保険が主流になると思いがちだが、ネット保険が始まって10年以上経つ今でもその割合は10%程度であると藤原社長は言う。
商品価値を決めるのは“人”
保険代理店がネット保険より選ばれる理由は“人”だ。知人や友人という付き合いで代理店を選ぶという人が一部はいるとしても、それだけで経営が成り立つわけではない。多くのお客様が「あなただから契約したい」と言ってくれなければ成り立たない。損害保険の中でもキョウエイ藤原保険事務所で最も取り扱いが多い保険は自動車保険なのだが、自動車保険は掛け金が大きいため、他の損害保険を取り扱っている事業者もたいていは自動車保険がメインになっているのだそうだ。

自動車保険を契約してくれたお客様が「あなただから契約したい」と思うきっかけは契約時ではなく事故などの有事の時だ。事故というのは日常ではないため、事故を起こしてしまった人は不慣れで混乱してしまうことが多い。冷静に考えられないときにまず最初に電話をするのが保険代理店の人なのだが、保険代理店の人は事故に遭った人から電話を受ける機会が多いため、的確にアドバイスをすることができる。このような一大事のときに、親切に対応してもらえると、この保険代理店で契約をしていてよかった、もっと言うと、この人が担当でよかったと思うようになる。こういった対応の一つ一つが口コミにつながり「あなただから契約したい」につながっていくのだ。

あるとき、食事屋さんが火事で全焼したことがあったそうだ。個人経営のお店だったため復旧するまでは一切の収入がゼロになってしまうという事態だ。この方は藤原社長のお客様で、火災保険を建物と什器備品(机や椅子、カウンター、食器などの店舗の商用器材全般のこと)と家財にかけていたため、途方にくれることなく、支払われた保険金で生活を立て直すことができたのだという。何も事故がないときは「もう保険のお金ばっかり払って」と冗談まじりに言うお客様だったが、保険に入っていて本当によかったと感謝をされたときに、藤原社長は深いやりがいと、強い使命感を感じたのだそうだ。

ネット保険ではコールセンターに電話することになるため、事故のたびに担当者は変わる。また顔も見えないので保険代理店の担当者に抱く感情とは違うものになる。

自動車保険は、事故によって被った損害を補償するというサービスだが、その範囲の外にある人の親切な対応という部分がネット保険と保険代理店をわける差となるのではないだろうか。
時代の流れに合わせ、仕事も変化する
共栄火災の専属代理店として始まったキョウエイ藤原保険事務所は損害保険をメインに取り扱っている会社だが、2001年から生命保険の取り扱いも始めた。まだ売上に占める生命保険の割合は一割くらいだが、今後は生命保険にシフトしていかなければ生き残りが厳しくなると藤原社長は考えている。

損害保険のメインである自動車保険は、若者の車離れという未来が待っている。カーシェアリングなど自分で車を保有しなくても、使いたい時だけ契約して使うというサービスが充実していくと、自然と保険の契約は少なくなる。また長期的な話だが少子高齢化も自動車保険の契約数が減る理由になるのだ。

損害保険と生命保険の営業の方法は実は大幅に仕事内容が異なるそうだ。損害保険は必要性があるため車や家を購入したときにお客様から保険の代理店を訪ねてくる。また損害保険は定期的に更新があるため損害保険の営業のメインの仕事は既存のお客様の徹底したフォローになり、新規開拓という活動をすることはほとんどないそうだ。

それに比べ生命保険は基本的には一度契約したら契約の更新というものがないため、新規の契約を次々に獲得していかなければ経営が成り立たなくなる。個人の生命保険といえば子育てのために仕事から離れた女性が大手生命保険会社の外交員として働く生保レディのイメージがあるかもしれないが、彼女たちは既存のお客様のフォローもするが、大半は新規契約の開拓をしている。また法人の生命保険を扱うのならば、保険の知識だけでは対応ができないため、営業マンの知識や経験が非常に問われることになるという。

生命保険分野に関しては、損害保険のノウハウをそのまま活かせるわけではないこともあり、キョウエイ藤原保険事務所では藤原啓介副所長をはじめとして生命保険の担当者を複数名置いている。
保険の法人営業はコンサルタント!?
▲ 藤原啓介副所長
個人で大きくお金がかかるときというのは出産、家、相続というタイミングであることに対して、法人では、借り入れの返済、銀行との付き合い方、企業間の相続、運転資金の確保やM&Aのことなど様々な状況が絡んでくる。保険の商品は変わらないのだが、その活用の仕方は変わってくるそうだ。

法人に対しては特にFP(ファイナンシャルプランナー)の知識やスキル、経営の知識を使い、この場面では保険をかけている方がいいと提案ができるコンサルタントのような役割が求められるという。

実際に藤原副所長は、県北の、ある林業を営んでいる会社のお手伝いをしたことがあるそうだ。林業は材木の価格がどんどん下がり、収入にならなくなってきており、担い手が少なくなっている。林業の担い手がいなくなると間伐という古い木を伐ることが行われなくなり、新しい木が育たなくなる。そうなると次第に森が痩せていき、大規模な土砂災害が起きる危険性が高まっていくという問題がある。しかしこの問題の本質は、林業の担い手がいなくなることではなく、材木が高く売れないというところにある。ということは商品まで加工して高く売れる仕組みを作ることができれば林業の担い手は増えることになる。そこに目をつけたその会社は、間伐材を使った商品の開発をして、販売するという取り組みをし始めることにした。ところが新しい分野の商品を開発し、売り出そうと思うと営業に力を入れないと認知度があがらない。ホームページを作ってネット販売をしようにも、知らない商品を検索して購入する人なんていないのだ。つまりある程度まとまった資金を用意し、営業部隊を組織して時間をかけていくことができないと事業を存続させられないのだ。藤原副所長はもちろん保険を売りたいのだが、この会社が存続することが大前提だということで、資金調達のお手伝いをした。この会社の直面する状況だと、しかるべき機関に、しかるべき書類を提出し審査が通れば、低金利でお金を借りることができる制度があることを知っていた藤原副所長はその制度を提案。もともと会社自体のコンセプトの素晴らしさや鋭さ、経営者を含む社員の能力の高さもあったこともあり、注目度も高い会社であったが、提案を採用いただいたその会社は無事低金利で借り入れることに成功し、そのお金を少しずつ返済しながら5年目でようやく黒字転換をした。黒字転換をして事業を拡大していく中で様々なリスクがでてくるため、そこで初めて保険の販売ができるのだという。コンサルティング自体にお金をいただいているわけではないため、厳密にはコンサルティングではないが、実際にしていることはコンサルティングそのものだ。
総合金融業として大切にするのは“バランス”
藤原副所長はご自身の仕事を保険業ではないという。保険の仕事は大きなくくりでは「相手の役に立つ仕事」、もっと言うと「お金の悩みを解決することで相手の役に立つ仕事」だと考えているという。

「保険」というものは、資産を減らさないために必要なものだが、資産を減らさないだけではお金の悩みを解決したとは言えない。「預金」という資産の保全、そして「運用」という資産の増加をあわせて、保険、預金、運用のバランスを大切にすることでお金の悩みは解決していくのだ。

これらを総合して提案していく仕事をしているので、キョウエイ藤原保険事務所は保険業としてではなく、「総合金融業」としてお客様のお役に立つために日々仕事をしている。
インタビュアーから
自動車保険や生命保険など身近にあるようで、実はあまり知らなかった保険の仕事ですが、個人、法人問わずただ保険を販売するだけでなく、様々なお金の悩みを解決することでお客様の役に立つ仕事と知り、イメージが大きく変わりました。